私たち立海の試合は早く終わり、次のために他校の試合を見ていた。・・・うん、さすが皆さん!あっさりと勝利しても、油断はなさらず、他校を見学するだなんて・・・。私もマネージャーとして、頑張らなくっちゃ!
とは言っても、他校の試合からデータ分析するのは、私より柳先輩の方が的確。ここは、先輩に任せた方が得策だよね。私は・・・・・・よし。皆さんのために、飲み物でも買ってきましょうか!こう暑いと、飲み物の消費も早いだろうから。
というわけで、幸村部長にお伝えし、私は近くの自販機へ向かった。・・・けど、意外と近くにはなくて、少し遠くまで来てしまった。早く戻らないと、皆さんに心配を・・・。



「ねぇ、そこの君。テニス部の子だよね?」

「えぇっと・・・、はい。一応・・・。」

「あのさー。俺ら、友達の試合見に来たんだけど、どこかわからなくって。ちょっと教えてくんない?」

「えぇ、構いませんよ。」

「本当?ありがとう!いやぁ、助かった。」



早く戻らなければならないけど、困った人を放っておけば、それはそれで先輩方に怒られてしまいそう。少し遅くなっちゃうかもしれないけど、帰ってから、事情を説明すればわかってくださるはずだと思い、その人たちの話を聞くことにした。



「それで、お友達の学校名は?」

「えぇっと・・・何だっけ?」

「そこで、俺に聞く?・・・俺も忘れたよ。」

「ごめん。俺ら、小学生の頃の友達で・・・。今は別の学校だから、うっかり忘れちまったよ。」

「そうだったんですか。・・・じゃあ、選手のお名前は?もしかしたら、わかるかもしれません。」

「でも、ソイツ、ありふれた名前だからなぁー。たぶん、1人に絞れないと思うんだよね。」

「それに、有名な奴でもないし。・・・ってわけで、全コートまで案内してくんない?それなら、絶対わかるし。」



・・・全コート。さすがに、それは時間がかかりすぎてしまう。



「もしかして、時間ない?」

「えぇ・・・まぁ・・・。部員を待たせていますので。」

「そこを、なんとか!」



えぇっと・・・。時間ないって聞かれたから、もういいのかと思っていたのに・・・。よりお願いされちゃった・・・。
でも、お友達の試合を早く見たいのかもしれないし・・・。



「とりあえず、対戦表をお見せします。これで、学校名を思い出せないですか?」

「う〜ん・・・。ピンと来ねぇなぁ。あんま、文字で見ないし、アイツの学校名。」

「俺も。やっぱ、案内してくれた方が早いと思うんだよねー。」



普段文字で見ないから、ピンと来ない・・・。たしかに、そうかもしれないけれど・・・。じゃあ、声に出して読んでみれば、わかるんじゃないですか?そう言いたかったけど、たぶん、違う。
この2人の話し方からして、どうしても案内してほしいんだ。・・・おそらく私に。と言うか、女の子に。



「では、残念ですが、私は部員を待たせていますので、別の方に聞いてみてください。」

「待ってよ。1コート目でわかるかもしれないじゃん。」

「そうそう。それに、やっと君みたいに、この辺りに詳しい子を見つけたんだからさ。俺ら、君以外に頼る人いないんだよ。」



そう言われて、2人に前後を挟まれてしまった。・・・マズイ。逃げ場が無い・・・!!この人たちは、本当にテニス部員ではないと思う。それでも、さすがに男の人たちから逃げられるとは思えないし・・・。
さぁ、どうしたものかと思っていると、ふとポケットの中の物が振動をした。これは・・・、ケータイ!!



「ちょっと、すみません。電話が・・・。」

「いいよ、いいよ。俺ら待っとくから。」



やっぱり、この人たちはどこかへ行くつもりはないらしく、ずっと私の前と後ろに留まっていた。とにかく、私はこれが頼みの綱だとでも言わんばかりに、ケータイの画面を見た。
そこに表示されていた救世主の名は・・・・・・・・・“仁王先輩”。その名は、私にとっては、救世主以上の意味も持っていた。だって・・・私の・・・大好きな先輩、の名前なのだから・・・。となると、電話をするなんて、とても緊張するのだけれど・・・、今はそうも言ってられない。
いろんな意味で震える手を抑えつつ、私はケータイの通話ボタンを押した。



「もしもし・・・先輩?」

『あぁ。帰ってくんのが遅いから、電話した。・・・どうかしたんか?』

「それが・・・。今、お2人の男性に道案内を頼まれたんです。」

『ほう・・・。で、どこまで案内するつもりなんじゃ?』

「その方々が、お友達の学校名を思い出せないらしく・・・。とりあえず、全コート案内してほしいということに・・・。」

『・・・・・・それ、怪しくないか?』

「はい・・・。今、その方々と一緒に居るので・・・。」



そう。こんなにも近くに居る。だから、こっちが不審に思ってることをなるべく悟られないようにするために、私は曖昧に話した。仁王先輩は、それに気付いてくださったらしく、その人たちには聞こえないよう、少し声を静めてくださった。



『じゃ、すぐそっちに行くから。今、はどの辺に・・・?』

「えぇ〜っと・・・。そこから1番近い自販機の辺りです。」

『わかった。それじゃ、俺が行くまで、そこを動かんように。』

「はい・・・。」

『それと、。・・・ケータイは通話状態のままにしとくこと。何かあったら、すぐに言いんしゃい。』

「・・・わかりました。ありがとうございます。」



私は先輩に言われたとおり、ケータイの電源は切らず、そのままの状態でケータイを耳から離した。そして、2人の男性の方を向いた。



「あの・・・。お急ぎだとは思うんですけど・・・先輩も来てくださるようなので、もう少し待っていただけませんか?」

「先輩って・・・1人?」

「そうだと思います。」

「先輩に確認してよ。電話、つながってるんでしょ?」



・・・もしかして、電話の内容を聞かれてたの?!だとしたら・・・。でも、ケータイを見てわかっただけかもしれない。とにかく、私はもう1度、ケータイを耳に当てた。



「先輩・・・?」

『あぁ、俺1人で行く。』

「・・・聞こえてたんですか?」

『当然じゃ。そのために、通話状態にしちょるんじゃから。』



それを聞いて、私は少し安心した。何かあっても、仁王先輩が聞いていてくださる。・・・まぁ、何かあったら、たぶん先輩は間に合わないと思うけど。それでも、誰にも知らせられないより、ずっとマシだ。
そう考えると、少し勇気が出てきて、私は堂々とその男性たちに答えた。



「先輩1人だそうです。」

「へぇ・・・。そっか。じゃ、ちょうどだな。」

「だな。」

「ちょうど・・・?」

「いや、何でもない、何でもない。とにかく、ちょっとぐらい待ってていいよ。な?」

「おぉ。俺も構わねぇよ。」



何がちょうどなんだろう・・・。そう思っていると、まだ耳に当てていたケータイから、仁王先輩の声が聞こえた。



『たぶん、女の先輩が来ると考えたんじゃろう。そうしたら、男2人・女2人じゃから、ちょうど数が合う。』

「・・・なるほど。」



全く・・・。何の為に、このテニスコートに来てるんだ、この人たちは・・・!!たしかに、今日は女子テニス部も試合があるけど・・・。だからってー・・・!!
みんな、試合を頑張る為、それを応援する為に来てるっていうのに、それを馬鹿にされた気がした。
それに!テニス部の人たちは、そんなに軽くないよ!!・・・たまには居るかもしれないけど。でも!!こんなナンパにはついて行かないんだから!!



「どうしたの?なんか、不機嫌そうだけど・・・?」

「いえ、別に・・・。」

・・・。気持ちはわかるが、あんまソイツらを逆撫でせんように、な。』

「・・・・・・。」

が何かされても、俺は今からじゃ間に合わん。だから・・・頼む。』

「・・・はい。」

「ん?先輩、何か言ったの??」

「いえ!何でもありませんよ?それより。先輩、早く来てくださるといいですね!お2人のお友達のためにも、早く案内をしてさし上げたいです。」



と言って、私はニッコリと笑った。そうすると、男の人たちも、してやったりという表情をしながら微笑んだ。
・・・なんか、屈辱。私一人で、この場をどうにかできないかな・・・。と言うか、どうにかしたい。だって、このままじゃ、悔しいもん。とは言え、部のためにも騒動は起こしたくない。上手く切り抜けるには・・・・・・やっぱり、仁王先輩を待つしかない?
そういえば、せっかく買った飲み物も温くなってしまう・・・。むしろ、もうなってるかも・・・。
はぁ・・・。結局、私って何の為にここまで来たんだろう・・・。



「・・・さっきから、浮かない顔だね?」

「え?そうですか?そんなことないですよ!」

「俺も、そう見えるけどねー?」

「・・・う〜ん。もしかしたら。早く案内できないことがお2人に悪いなって思ってたので・・・。それで、そう見えたかもしれませんね。」



いつまで、こんな会話を続けなくちゃならないんだろう・・・。もう、本当嫌になってくる・・・。



「じゃあ、先に1コートぐらい見に行こっか!」

「え・・・。でも、先輩には、ここに居るって約束したので・・・。」

「大丈夫。先輩には、そう言っておきなよ。」



何が大丈夫なんだ?!勝手にそんなこと決めないでほしい。・・・でも、どうしたらいいんだろう。そう思っていると・・・。



!!」

「先輩・・・!!!」

「げっ・・・。先輩って・・・。

男だったのかよ・・・!

「悪い。待たせたのう。・・・で、お前さんらか。案内してほしいっていうんは・・・。」

「いや!もういいや。たぶん、もう試合も終わっちまったと思うし・・・。な!(男に興味はねぇ。次、探すぞ!)」

「(だな!)うん、残念だけど、もう間に合いそうにないな。んじゃ、そういうことで・・・。」



そう言うと、男の人たちは去って行った。・・・良かった。これで、問題も起きずに、解決できた。



「あの、仁王先輩・・・。わざわざ、すみませんでした・・・。」

「何言っちょる。当然のことじゃろ。」

「すみません・・・。」

「それに。俺は、に謝ってほしくて来たんじゃないぜよ?」

「じゃあ・・・ありがとうございました。」

「別に礼がほしいわけでもないが・・・。まぁ、いいか。・・・どういたしまして。」



仁王先輩はそう言って笑ってくださったから、私も笑顔に戻れた。・・・うん、悪いことはしたと思うけど。ごめんなさいじゃなくて、感謝の気持ちを持たなくちゃね!



「仁王先輩が早く来てくださったので、本当助かりました!・・・もしかして、走って来てくださったんですか?」

「・・・が危ないかもしれんってときに、歩いて行く馬鹿がどこにおる?」

「でも、私の自惚れた勘違いって可能性も・・・。」

「それは絶対無い。は、絶対そんな勘違いはせんよ。逆に、相手の真意に気付かずに、うっかり案内しそうになることはあっても、な。」



う・・・。たしかに・・・。反論できない・・・。



「ま、そこがのいいところでもあり、困るところでもある。」

「すみません・・・。」

「気にしなさんな。俺が勝手に困っちょるだけだから。」

「でも、今もこうして、仁王先輩には助けていただいて・・・。」

「・・・・・・。とりあえず、そういう意味じゃないから、気にせんでえぇ。」



軽くため息を吐いた後、なぜか、苦笑い気味に先輩はそうおっしゃった。・・・うぅ、私、余計なこと言った?
そうだ!また謝り態勢になっちゃったからだ・・・。もっと感謝の気持ちを表さないと。



「本当、仁王先輩が電話してくださって良かったです!先輩の声を聞いて安心しましたし、何かあっても先輩が聞いていてくださるから大丈夫だって思えましたし・・・。ありがとうございました!」

「・・・・・・俺の声で?」

「はい!」

「・・・・・・。そんな無邪気に返事されても・・・。どうせ、は深い意味なんて無いんじゃろうけど・・・。」

「・・・先輩?」

「もう、いい。どうしたって、は真意に気付かんだろうから。」



・・・どうされたんだろう。仁王先輩が何やら独りで、呟き始めてしまわれた。それに、真意に気付けないって・・・。さっきの話??



「なぁ、。なんで、幸村じゃなく、俺が電話したんだと思う?」

「え?それは・・・たまたま、仁王先輩が1番に気付いてくださったから、じゃないんですか?」

「たまたま、だと思うか?」

「・・・?」

が飲み物を買いに行ったとき。みんな、試合を見とった。もちろん、俺も、幸村も。・・・じゃが、は部長の幸村には、一応買いに行くことを伝えた。・・・・・・この状況で、の帰りが遅いことを気にするんは誰だと思う?」

「・・・幸村部長、ですね。」

「そう。幸村以外、がいつ出かけたのか、正確にはわからんはず。それなのに、俺はそれを知っていた。・・・なぜだと思う?」

「それは・・・幸村部長に聞いたのでは?」

「そうだとしたら、なぜ幸村はそのままに連絡しなかったと思う?」

「・・・あ!本当ですね!言われてみれば・・・。じゃあ、たまたま仁王先輩は、私が買いに行くのを見た、とか!」

「試合を見てるときに、たまたまを見てることなんて、あると思うか?」

「あぁ、そうですね・・・。」



じゃあ、もうわかりません。私は、そんな顔をしていたんだろう。仁王先輩が少しため息を吐いたあと、説明をしてくださった。



「要は、たまたまなんかじゃなかったんよ。・・・たしかに、俺は一応真面目に試合も見とった。けど、試合の分析は柳の方が正確じゃろうという思いもあったし、さっきまでの自分の試合で少し疲れもあった。そんなとき、つい集中力が続かずに、自分の見たいもんを見てしまう・・・わかるか?」

「はい。・・・ということは、もしかして。その見たいものというのが・・・。」

「そう、じゃ。でも、さっきも言ったように、はこういうことには全く気付かんし・・・。だから、俺は困っちょる。ただ、他の男に対してもそうだから、ある意味助かる。なるべく、敵は減らしたいからのう。」



これって・・・そういうこと・・・なのかな?たぶん・・・、そう・・・なんだよね?一瞬、先輩に騙されてるんじゃないかとも思ったけど・・・仁王先輩は、こういうことで嘘を吐くような人じゃない。だから・・・。



「あの・・・。他の方は、先輩の心配しすぎっていう可能性もあるかもしれませんよね?」

「・・・まぁ、そうじゃな。」

「でも、少なくとも、仁王先輩のことは気付けませんでした。だから、鈍いと言われても仕方がないですが。・・・私、自分の気持ちに気付けないほどではありません。」

「ほう。で、どんな気持ちなんじゃ?」

「私も仁王先輩のことが好きです・・・!」

「・・・・・・それはありがたい。が、俺はまだ好きとは言ってない・・・。」

「えぇー!!そ、そんな・・・。」

「話はよく聞きんしゃい。まだ言ってないだけで・・・もちろん、好きに決まっちょる。」

「なんだ・・・。驚かさないでくださいよ・・・。」



そんな私を見て、仁王先輩は楽しそうに笑った。・・・もう、からかわないでくださいよ!とも思ったけど、私も素直に嬉しかったから、文句も言わず、2人で皆さんのもとに帰った。
ところで。・・・・・・・・・飲み物は、すっかり温くなってしまったようだ。



「お待たせしました。ただいま、戻りました!ただ、申し訳ないのですが、飲み物がかなり温くなってしまったので、今からクーラーボックスに入れておきます。」

「えぇー?!俺、すぐ飲みたかったのに・・・。」

「ごめんね、切原くん。」

「あれだろぃ。どうせ、と仁王がラブラブしてて、温くなったんじゃねぇの?」

「ま、丸井先輩・・・?!そ、そんなわけは・・・!」

「そういうこと。そんなわけで、これからには手を出さんように。」

「仁王先輩まで・・・!!」



しかも、仁王先輩は、私の肩に手を乗せると、そのまま私を先輩の方にぐっと引き寄せた。
私1人が焦っていて、仁王先輩や他の先輩方も、楽しそうに笑っていらっしゃった。・・・いや、真田副部長だけは、「た、たるんどるぞ?!仁王!!」なんて顔を真っ赤にしていらっしゃったけど。
とにかく、私は恥ずかしくなって、先輩から離れて、急いで飲み物をクーラーに入れた。・・・あぁ、私もこの中に入りたいぐらい、顔が暑いよ。
・・・・・・・・・でも、嬉しい気持ちも大きいから、私はとりあえず、仁王先輩を見上げてニッコリと笑っておいた。



「はぁ・・・。だから、無邪気にそういうことをせんでくれ・・・。」

「??」

「・・・まぁ、許しちゃる。俺はのこと、好いとうから。」



だから、そういうことは・・・!!と思ったけど、私も許しておきます。だって、私も仁王先輩のこと、大好きですから。・・・・・・と口には出しませんけどね。













 

今回のテーマは、仁王先輩と電話!でした。好きな人との電話って、良くないですか??多少の緊張も、楽しく感じるポイントかと・・・。そんなわけで、仁王夢初の年齢差ありの設定でした!
もちろん、直接声が聞ければいいんですが。たとえ、電話越しであっても声を聞きたいと言いますか。あと、私は電話越しの声も好きです♪
まぁ、私の場合、夢とゲームぐらいしか、経験は無いんですけどね!(笑)

それから、今回書いてて気付いたのは・・・。こうやって、仁王さん以外のキャラを出せば、仁王さんの台詞を少なくできるじゃないか!と思いました(笑)。これは、使える手だなぁ、と・・・。
いえ、それは冗談です!やっぱり、メインキャラとの絡みが無いと寂しいですからね。これからも、精々頑張らせていただきます!

('08/09/05)